貸金請求 ※少額訴訟はメリットが少ない

ことの発端

貸金請求:少額訴訟

A(50歳女性)はペットショップを経営するB(48歳男性)に頼まれて,「すぐ返す」という約束で,数回にわたり100万円を貸した。AはBのペットショップの常連客だったので,借用書はとっていない。
3か月後,Aは返済を求めたが,Aは「すぐ返すとは言ったが,今は返せない」の一点張りでらちが明かない。そこで,Aは司法書士Xに少額訴訟を依頼した。

司法書士の対応と結果

Aの希望はすぐに少額訴訟を提起することであったが,そもそも少額訴訟は60万円以下の請求しかできないので,100万円全額の少額訴訟は提起できないが,金銭は数回に分割して貸し付けられていたので,その一部についての少額訴訟は可能であった。しかし,司法書士Xは,まずはBと話し合うこと,話し合いの場にはXを同席させること,話し合いが決裂した場合は,少額訴訟ではなく,全額について通常訴訟を提起することを提案した。
1週間後,Aと
XはBと話し合った。その結果,

 ◎Bは今は経営不振で一括では返済できない。
 ◎Bは親と共有する賃貸マンションを所有している。
 ◎長期分割なら返済する意思があること。
以上のとおりの事実が判明したので,
 ①まず,100万円を借りていること,それを分割して返済することを約束する書面に署名押印させた。
 ②Bのマンションの持分に抵当権を設定し,仮登記をした。
その後,Bは概ね順調に返済を続けている(多少の遅滞はあった)。

本件のポイント

貸金請求に限らず,すぐに訴訟を提起して対立関係を鮮明にするより,まず相手の状況を確認するために話し合い,譲歩できるところは譲歩した方が結局は早く解決することが多いです。本件は正にその典型です。
お金を貸した当時,ABが親密だったので借用書もなかったし,100万円は数回に分けて手持ち現金から手渡されたので,貸し付けたお金が100万円になることの証拠がありませんでした。
そして(詳細は分かりませんが)二人の仲は別の原因で悪化していたので,突然「問答無用」と少額訴訟を提起するとBが感情的になる可能性があり,その勢いでBに貸付けを否認されたら,当方は立証に窮してしまいます。
そこで,比較的Bの個人情報を知っていたAからBの性格や賃貸マンションを所有しているらしいとの情報を聞き出し,訴訟より話し合いを先行させました。
司法書士が代理人となり,Aが本気だと知ったBは比較的素直に話し合いに応じ,分割払いという条件に応じたのでした。

少額訴訟はメリットが少ない

少額訴訟は,一般の人向けの書物などでは,手軽に債権回収ができる訴訟手続きであると紹介されていますが,恐らく,弁護士や債権回収の経験が多い司法書士は,少額訴訟は選択しないと思います。
少額訴訟のメリットは原則1日で終わる(審理が1日で終わり,その日に判決)ということだけで,次のとおりのデメリットがあり,案件によっては使いにくい手続だからです。
①被告の申出により普通の裁判に移行する。
 原告が少額訴訟を望んでいても,必ずしもこの手続きを利用できるとは限らない。
②証拠(書類や証人)が直ちに調べられるものに限られる。
 審理は1回なので証拠調べや証人尋問はその日のうちに調べられるものに限られ,複雑な事実
 
立証はできない。
③被告が請求事実を認めても分割払いや支払猶予の判決がされる。
 通常訴訟では,被告が請求事実を認めれば全面勝訴で,原告の請求どおりの判決が得られるが
 少額訴訟では支払条件が
付されることがあり,原告はこれに不服を申し立てられない。
地方裁判所に控訴はできない
 判決の分割払いや支払猶予の定め以外の部分に不服があるときは1回だけ異議申し立てができ
 るが,異議の裁判に不服申立はできず,地方裁判所に控訴することができない。

以上のデメリットは,少額訴訟の制度趣旨から言えば当然なのですが,簡易裁判所の通常訴訟でも比較的短期間で審理が終結することもあるので,ただ早いというだけで少額訴訟を選択するのはリスクが多いと感じてしまいます(特に③がリスキー)。私は,よほど適した案件以外は少額訴訟をお勧めしていません。