相続登記・住所変更登記等の義務化

将来,相続登記をしないで放置すると10万円以下の過料に処されるかもしれません。

相続登記等の義務化法案の成立

相続登記の義務化 罰則

これまで相続登記や住所変更登記は義務ではありませんでした。しかし,令和6年4月1日から法律上の義務となり,違反すると10万円以下の過料に処される可能性があります。

相続登記と住所変更登記の改正内容は次のとおりです。

義務化される登記 登記すべき期限 違反した場合 いつから
相続登記 相続・遺贈により所有権を取得したことを知った日から3年以内 10万円以下の過料 令和6年4月1日から
住所等変更登記 住所等の変更があった日から2年以内 5万円以下の過料 公布後5年以内

なお,改正法は,法律施行前に生じた相続についても適用され,施行時点(令和6年4月1日)で長期間相続登記が放置されている場合,過料に処される可能性があります。詳しくはこちら▶
法務省の説明資料(下記リンク)にも概要が説明されています。
https://www.moj.go.jp/content/001397793.pdf

以下,次の3点について説明します。
①相続登記の義務化(罰則あり)
②住所変更登記の義務化(罰則あり)
③相続土地の国庫帰属(土地の所有権放棄)

相続登記の義務化

自分が不動産を相続したことを知った人は,知った日から3年以内に相続登記をする義務があり,相続登記をしないと10万円以下の過料に処されることがあります。
不動産を相続によって取得したことを知った日はいつか?ですが,多くの場合,被相続人の死亡と同時に知ると思われます。しかし,
①被相続人が不動産を所有していたことを知らない
②親の実家の相続登記が未了であることを知らない
このような場合は何も警告もせず「ハイッ過料10万円」ということにはならないと思われます。恐らく,法務局が長期間相続をしていないと思われる不動産の相続人を探索して,その人に相続登記を促し,正当な理由なく登記をしない人に過料を科す運用になろうかと思いますが,どのように運用されるのか,詳細はまだ分かりません。

すぐに相続登記ができない場合(相続人である旨の申出)

複数人で共同相続した場合,なかなか遺産分割協議がまとまらず,3年以内に相続登記ができない場合が出てきます。
このような場合,相続人は,自分が相続人であることを登記官に申し出ることができ,この申出をした相続人は登記義務を履行したものとみなされます。
この申出があった場合,登記官は職権でその旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができます。
なお,こ
の申出は相続登記ではなく,いわば「登記義務の先延ばし」に過ぎないので,その後,遺産分割協議が調った場合は,その時から3年以内に登記しなければなりません。

遺贈登記の単独申請

これまで遺贈による所有権移転登記は,贈与や売買の場合と同じように,遺贈をする人の相続人と遺贈を受ける人(受遺者)とが共同で申請する必要がありました。
この場合,遺贈者の相続人が異論を唱えたり,人数が多かったり,認知症だったりと様々な事情で,登記が困難である場合が少なくありませんでした。そのような場合も,自己が遺贈により不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権移転登記をしなければならず,場合によっては期限内に登記することができないことが予想されます。
そこで,改正法は,受遺者(相続人である受遺者に限る)は単独で遺贈の登記ができるようになります。相続人ではない受遺者は従前どおりです。
また,相続人である受遺者は,自己が遺贈により所有権を取得した旨の申出を登記官にすることができるようになります。

住所氏名等の変更登記の義務化

所有権登記名義人の住所や氏名に変更を生じた場合,変更の日から2年以内に変更登記をしなければなりません。会社等法人の名称や所在地が変わった場合も同じです。
これは,所有権取得の登記をした人は,その後に住所などに変更があっても変更登記をしないままにしていることが多く,それが所有者不明不動産を生じさせる一因になっていることから新設されたものです。

住所変更登記は,例えば東京都新宿区の住所で登記した人が神奈川県鎌倉市に住所を移転したとします。この場合,現住所の鎌倉市の住民票を取れば,その住民票には前住所地として東京都新宿区の住所が記載されていますので,登記名義人が新宿区から鎌倉市に住所移転したことが証明でき,その住民票を提出して住所変更登記ができます。
しかし,更に,鎌倉市から長野県松本市に住所を移転した場合は,松本市の住民票だけでは直前の鎌倉市から住所移転したことしか記載されていないので,鎌倉市の住民票除票(他市町村へ転出した場合,住民票は閉鎖され「住民票除票」となります)が必要となります。
さて,
ここで問題となるのが住民票除票の保存期間が5年であるということです。鎌倉市の住民票除票は,閉鎖後5年間しか請求できません。   

住民基本台帳法の一部改正により,令和1年6月20日(改正法施行日)から,住民票の除票・戸籍の附票の保存期間が5年から150年に延長されました。なお,改正法施行日時点で保存期間が経過しているものは発行されません。

このような場合は,本籍地の役場で戸籍の附票を取得します。戸籍の附票とは,本籍地の役場で戸籍に記載されている人の住所を管理している帳簿(今はコンピューター上の帳簿)です。この附票には,住所の変遷が記録されていますので,何度も住所変更をした人は,この附票を取る方が確実で早いです。

しかし,本籍を住所と一緒に移転(転籍)した場合は,新本籍地の附票には転籍時以降の住所しか記載されません。また,附票にも時々改製があり(最近はコンピュータ化による改製があった),改製後の附票には改製時以降の住所しか記載がありません。そして,これも転籍して閉鎖されたとき,または改製から5年経つと閉鎖・改正前の附票の除票は取得できなくなります。(上記のとおり,法改正により150年に延長されています。)

どうしても住民票や附票で住所の変遷が証明できない場合でも住所変更登記はできますが,若干手間と費用が掛かります。売却や担保設定で,急に住所変更を急ぐ場合に焦ることになりますので,住所変更や氏名の変更があったら,なるべくその都度変更登記をすることをお勧めします。

改正法施行前の相続や住所等の変更について

改正法は,施行前に生じた相続や住所等についても適用されます。
相続の場合は,施行日時点で相続登記を3年以上していない人は,施行と同時に罰則(10万円以下の過料)の対象になります。
②住所等の変更の場合は,施行日時点で住所変更登記を2年以上していない人は,施行と同時に罰則(5万円以下の過料)の対象になります。
①②とも法律の条文上は罰則の対象ですが,警告なしで過料に処されることはまずないと思います。
法律の施行まで少し時間がありますが,長期間放置した相続などは相続人間の話し合いが難航します。今からでも登記に向けて準備した方がよいと思います。

相続した土地の国庫帰属

相続や遺贈(相続人に対する遺贈)により取得した土地は,次の条件を満たす場合,国に対して,その土地を国庫に帰属させることの承認を求めることができます

①更地(土地上に建物がないこと)であること
②担保や借地権・地上権などの目的となっていないこと
③通路など他人が使用を予定していないこと
④一定基準以上の土壌汚染がないこと
⑤境界が不明ではなく,所有権の存否・範囲に争いがないこと

国は,上記①~⑤の要件を満たし,かつ管理に過分の費用を要するなどの問題が無ければ,承認をします。国が承認をした場合,その土地の通常の管理費10年分を納付することにより,所有権は国庫に帰属します。具体的な評価・査定の基準は未定です。